私が腕を切る理由

教室の窓から昼休みの中庭を眺めていた。風が少し冷たい。視線の先には、恋人と一緒にお弁当を食べながら笑い合っている可愛いあの子の姿が見えた。何を話しているのだろうなんて考えているうちに、笑い合う彼女が段々と風景の一部になっていく。聞こえてくる声も遠くなり、私はどんどん独りになっていった。

 

教室には他にも一人で座っている同級生が数人いたけれど、そんなことは何の気晴らしにもならない。私はただ孤独だった。この持て余した孤独をどうにか追いやりたくて、私はお守りのように持ち歩いているカッターを鞄から取り出し、誰にも見られないようにしてギュッと手の中で握りしめる。

 

あの子の顔が浮かんだ。いつもこの教室で一緒にお弁当を食べていた。他愛もない冗談で笑いあっていた。私にできた唯一の友人。けれど今は、そんなのも昔話だ。私はあの子の恋人を憎んだ。私からあの子を奪った男だから。でも今はあの子さえ憎たらしかった。簡単に私を切り捨てたあの子は尻軽女だ。

 

無性に腹立たしくなって、私は慌ててトイレへ逃げ込んだ。いつもこうだった。あの子のことを考えては怒りが湧き、けれどこの怒りをぶつける宛はなくて、仕方なく私は私を傷つける。痛みで怒りを誤魔化すためだった。トイレの中、握りしめていたカッターで何度も腕を切る。便器に溜まった水が真っ赤になり、それを見てようやく落ち着く。

 

こんな毎日があとどのくらい続くのか。考えれば地獄だった。けれど、あの子はもう私のところへなど戻ってこない。私は明日もきっと腕を切る。もう何もかも、元通りにはならないのだ。